古川パイセン

うちの会社の常務の槻木さんが新人のときの先輩に、古川さんという方がいました。とても寡黙な方で、書道の先生のような字を書き、仕事終わりの机をチリ一つ落ちてない状態で退社するという真面目な性格をしていました。県北の進学校をオール5で卒業し、うちの会社に入ったエリートです。

そんな古川さんのエリアを槻木さんが引き継ぐということで、槻木さんが古川さんに同行して挨拶回りをすることになりました。お客さんの会社に到着し、各社員さんのデスクを回ってると、ある女性の社員さんの前で古川さんは足を止め、自分の胸を揉む仕草をしながら「◯◯さ~ん!オッパイおっきいっすね~!」と言いました。相手の◯◯さんは「は~…」と苦笑い。その後も古川さんは他の社員さんと話しているときに◯◯さんが後ろを通ると、話を一旦止め、「◯◯さ~ん!オッパイおっきいっすね~!」と揉み揉みの仕草。普段の物静かな古川さんからは想像もできない姿に、槻木さんは驚いたのでした。

その会社の挨拶を終え、次のお客さんのところへ行く車中で、槻木さんは古川さんに「さっきの◯◯さんって方はお世話になって長い方なんですか?」と聞きました。そしたら古川さんはいつもの寡黙な感じで「会ったの初めてだよ」と言いました。◯◯さんが名札をしているのを見て名前を知り、犯行に及んだのです。槻木さんはまた驚きました。こいつ頭おかしいんじゃねぇかと。これが後に語られる「古川さんオッパイおっきいっすね事件」です。

古川さんの異常さに心底ビビった槻木さんは、古川さんを観察するようになります。そしてわかったことが、「エロ大好き」ということ。普段は寡黙なのに、「今日朝に女子高生のパンチラ見ちゃったよ~」とニヤニヤして出社したり、所長の八木山さんと話すと必ず「八木山さんの奥さんオッパイおっきいもんね~。おっきいもんね~」としつこく言います。それ以外の場面では裁判官のような固い顔で仕事をしているので、おそらくエロに遭遇することで人格が変わるのだと思います。

僕はこの話を聞いて、自分はまだまだだなぁ、頭のおかしい人はたくさんいるんだなぁとホッコリしました。お客さん相手に「あなたのオッパイ大きいよ」の気持ちを全身を使って伝える。そして言葉でも伝える。身体と言葉で巨乳を賛美。時代が現代なら一発アウトでしょう。

その後、古川さんは転職したので、僕は古川さんに会ったことはないんですが、古川さんは化粧品の販売員になったらしいので、今日もどこかのデパートで「お客さ~ん!オッパイおっきいっすね~!」と自分の胸を揉む仕草で頑張っているのかなぁと想像してしまいます。逮捕されていなければね。

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この記事を書いた人

東北の某都市の零細企業で働く窓際びんびんサラリーマン。
幼少の頃から霊感の強い母方実家の人間や幽霊屋敷に住む友人などに囲まれて過ごすが、本人に霊感なし。
代表作「ボウィンマンの一言物申す」

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