偽り

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コツリ…コツリ… お母さん コツリ… お父さん

門眞町にある乗船場の待合室は、今日も多くの死者で溢れていた。名簿を持って歩く加藤ノドカに声をかけたのは、初老の男性だった。

「出航はまだですかな?いや、船は苦手でね」

「大丈夫ですよ。もう酔いません。死んでますからぁ」と笑顔で答えるノドカ。

「いや~わかってるんだが、怖いものは怖い。それとあの…さっきからコツコツ音がする。子供の声もどこからか…」

「これは賽の河原から聞こえているんです。親より先に死んだ子供は賽の河原で石を積まなきゃいけません。完成する前に鬼がきて崩しちゃうんで、永遠に終わらないんですけどね」

「あぁ、そりゃかわいそうだ。私は子供が大好きでね。生きていた頃は児童養護施設で働いていた。働くことが生きがいだったんだが、癌になってしまってね」

「人生いろいろですよねぇ」と軽く会釈してノドカは事務所に戻った。

門眞町から出航する船には日本で死んだ者が乗る。人は死んでから四十九日までに7回の審判を受け、そして行き先が決まる。三途の川を渡れるのは初七日にある秦広王の審判を受けた者だけだ。

船に乗り込む時間になり、皆ぞろぞろと乗り口に並びだした。ノドカは名簿をチェックしながら船に人を入れていく。最後尾には先程の初老の男性。彼の番になった。

コツリ…コツリ…お母さん お父さん

船の乗り口から子供たちが見える。手も足も血だらけだ。初老の男性は子供たちに背を向け怯えるようにノドカのチェックを待った。

「ひぃぃ。ダメだ。あっちは見られない。子供がかわいそうだ。早く船に入れてくれ」

ノドカは名簿を閉じた。

「あなたはこの船に乗れませんよ。佐藤圭太さん」

佐藤が顔を上げる。

「どうしてだ。どうして乗れない」

ノドカは無表情で答える。

「あなた秦広王様の審判を受けていませんね?死亡者のリストに名前があるのに、乗船名簿に名前がない。あなたがここにいるのはおかしいんですよ」

コツリ…お母さぁん!お父さぁん!

「ひぃぃ。何かの手違いだろう!早く乗せてくれぇ!」

「川原が見られないのは子供たちがかわいそうだからじゃない。あなたが殺した子供たちがあそこにいるからでしょう。秦広王様は「殺生」の罪を審理します。人殺しのあなたがここにいられるはずがない。てか、秦広王様の審判スルーなんてよくできましたね。あーコワ。秦広王様って不動明王様の化身ですよ」

「私は…どうなる」

「どうなるかは後ろにいる方に聞いてください」

佐藤が振り向くと、家屋より更に大きい不動明王が見下ろしている。不動明王が佐藤の首根っこを掴んだ。

引きずられる佐藤にノドカが

「子供たちは地蔵菩薩様がやってきて救済してくれるんで、安心してくださいねー!って聞いてないか」

ノドカは変なポーズを決めた後、佐藤の背中にバイバーイと手を振った。

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この記事を書いた人

東北の某都市の零細企業で働く窓際びんびんサラリーマン。
幼少の頃から霊感の強い母方実家の人間や幽霊屋敷に住む友人などに囲まれて過ごすが、本人に霊感なし。
代表作「ボウィンマンの一言物申す」

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