君は日本で古くから伝わる『憑き物筋』って知っているかな?
幽霊とも妖怪ともいえるんだろうけど『犬神』なんかが代表的だよ。
憑き物筋の憑き物は普通の霊と違ってちょっと厄介なものなんだ。
知りたそうな顔してるねぇ。
いくつか種類があるから君に教えてあげるよ。
幽霊や妖怪とは違う『憑き物』
憑き物って、幽霊や妖怪と同じなんじゃないかって?
確かに広い意味で『憑き物』っていうなら、人に憑りついているもののことを指すと思う。
でも今話している『憑き物』っていうのは管狐や犬神といった『憑き物筋』に憑いているもの。
これらの憑き物が人に憑りつく理由は様々なんだけど、一旦憑りつくと離れることは滅多にないみたいなんだ。
ただ単に憑りついて悪さをするっていうものでもなく、憑りついている人が嫌な思いをしたりしたときは相手に復讐しに行ったり、自分が憑りついている人を助けたりもする。
けどそれは憑き物の怒りをかわないために毎日お参りしたり、祠で祀ってたりしている場合。
憑き物をないがしろにしていると憑りつかれている人に悪さをして、最悪の場合憑りついている本人やその家系の人を殺してしまうこともあるんだ。
幽霊や妖怪はただ悪さをしたりするだけだけど、大切に扱えば憑りついている人に利益をもたらしたり、憑りついている人にひどいことをした奴に復讐したりする点で、幽霊や妖怪よりもランクが少し上だと思ってもいいと思う。
一般的に妖怪と言われている座敷童も、この憑き物の一つと言ってもいいと思うよ。
あれは家系というか家に憑くものだけどね。
『憑き物』は家系で受け継がれる?
憑き物っていうと特定個人にだけ憑りつくと思うだろ?
実は今話している犬神なんかの憑き物は個人ではなく家系につくものなんだよ。
この憑き物を持っている家系のことを『憑き物筋』って言うんだ。
じゃあ、憑き物筋の家系でなければ、憑き物とは無縁なのかというとそうでもないんだよね。
憑き物筋の家の人と結婚した場合、その憑き物も一緒に嫁いできてしまうのさ。
だから今まで自分の家系が全くそういったものと無縁だったとしても、一族に憑き物筋の人を迎え入れることによって、その家も憑き物筋になる可能性が高い。
一般的に、憑き物筋の家系の人は親子代々憑き物を受け継いでいる。
これは憑き物がどういった理由で憑いているかにもよるんだけどね。
祓うこともできるようだけど、それにはかなりの実力をもった霊能者や修験道の人なんかの力が必要になるみたいだよ。
『憑き物』には種類がある
日本各地で憑き物筋の話はある。
そしてその地方によって憑き物の正体は色々なものがあるんだ。
いくつか教えてあげるね。
犬神(狗神)
犬神(犬神)はキツネと並んで一般的によく知られている憑き物だよ。
主に西日本に多い憑き物で、その由来は平安時代に禁止された特定の動物の霊を使った呪いの蠱毒(こどく)が元と言われている。
でね、この犬神、実は作り方があるんだけど……はっきり言って作り方は人に呪いをかける呪詛なので、今は教えるのはよそうと思う。
仮に作ったとして、君みたいに霊能力者でもない、修行も積んでいない素人が扱えるものではないからね。
この犬神の憑きやすい家系って言うのがあるんだけど、これは蠱術を扱った人の家系って言われている。
主に術者や山伏、祈祷者や巫蠱の血筋だね。
犬神は世代を追って憑き続けて離れることがないって言われているんだ
この犬神、普段は憑りついている人の家の納戸の箪笥や床の下、水がめの中なんかで飼われているそうだよ。
一般的に霊に憑りつかれやすい人と同じで喜怒哀楽が激しかったり情緒不安定な人に憑きやすいんだってさ。
犬神に憑りつかれた人は胸や手足に痛みを感じたり、急に肩をゆすり始めたりして、犬みたいに吠えたりするんだって。
大食いになったり、死んだ時に犬の歯形が体についていう説もあるんだよ。
人間の耳から体の中に入るらしく、憑りつかれると嫉妬深くなるとも言われているんだ。
人だけでなく、牛や馬と言った動物や鋸なんかにも憑りつくと言われている。
オサキキツネ
オサキキツネは主に関東地方に伝わっている憑き物で、特に東京に伝承が多いみたいだね。
那須に伝説の九尾の狐の殺生石があるのを知っていると思うんだけど、この九尾の狐の金毛が飛んで霊となったものと言われているんだ。
また一説によると九尾の狐の祟りを鎮めようと源翁心昭という人が殺生石を割った時に、破片の一つが上野国という今の群馬県に飛んでオサキキツネになったっていう話もある。
名前についてなんだけど、一般的には九尾の狐の毛から生まれた『尾先』、尾が二つに咲けているからという『尾裂』、そして神様の眷属という意味の『ミサキ』が元になったっていう3つの説があるんだ。
オサキキツネの姿は文献や土地によってさまざま。
キツネより小さいイタチ、フクロウと鼠の雑種のようなもの、ハツカネズミよりちょっと大きいものと言実に色々なパターンがあるんだよね。
その体の模様についても茶と灰の混合色、橙色、斑色とバリエーションが多くて、頭から尾の先まで黒い1本の線があるのが特徴らしい。
動きがとても素早くて神出鬼没、常に群れているって伝わっていて、憑いている家系の人の後ろをついて歩くことが多いらしいんだけど、憑りついている人の意志を無視して単独で色々と行動を起こすらしい。
このオサキキツネは家系に憑いているものはどんな方法を使っても引き離すことができないらしくて、いじめたりすると祟りがあるんだって。
そしてね、オサキキツネは個人に憑くこともあるんだけど、個人に憑いた場合は狐憑きみたく興奮状態になったり、精神に異常をきたす、熱がでる、大食い、奇行といった症状が出るらしいよ。
群馬のとある村では、オサキキツネは山と里の2種類に分かれていて、山のオサキは人に憑りつかないけど、里のオサキは人に憑りつくとも言われている。
オサキ憑きの家系をオサキモチ・オサキ屋・オサキ使いっていうんだけど、オサキ憑きの家系はよその家系と結婚して嫁いだ先がオサキモチになったって言われるのを避けるために、同じオサキモチ家系同士で結婚するんだって。
これって、結構血が濃くなりそうだけど大丈夫なんだろうか?
管狐(飯綱(イヅナ))
管狐(くだぎつね)は別名『飯綱(イヅナ)』とも言うんだけど、宮城県ではなぜか『ゲドウ』という呼び方をすることがあるみたい。
狐の姿をした憑き物で主に東北地方に伝わっているみたいだね。
関東ではオサキが強いみたいで管狐の話はほとんど伝わっていないみたいだよ。
管狐は名前の通り、竹筒の中に入ることのできる大きさというのが一般的。
中にはマッチ箱くらいの大きさともいわれて75匹に増えるというような言い伝えもあるんだ。
『飯綱使い』という人が飼い慣らしているような感じなんだよね。
飯綱使いは予言や占いなんかをこの管狐(または飯綱)を使って行い、依頼者が恨んでいる人に管狐(飯綱)を憑りつかせて病気にさせたりするって言われているんだ。
管狐の憑いている家系はクダモチ・クダ屋・クダ使い・くだしょうというような呼び方をされてどちらかというと嫌われていたらしい。
オサキキツネと違うのは自分の意志で行動することはなく、主人の意志に従って動くところかな。
ただ、管狐は他人の家から主が欲しいと思ったものを調達してくるので、管狐の憑いている家は裕福になる事が多いらしいよ。
ただ増えすぎて75匹になると憑りついている家系は食いつぶされて衰えていくとも言われているんだ。
外道
外道は中国地方に伝わっている憑き物で、山口県や四国の一部にも伝承が残っている。
ゲドウ・下道とも表記されることがあるみたいだね。
イタチに似た姿をしてるけれどイタチよりは小さくて、鼠色や斑色といった外見をしていると言われているんだ。
ただ島根の一部の地域では口の裂けたモグラみたいなもの、広島の三次市あたりでは足が短い茶褐色の動物とも言われ、地域によって蛇の霊だとしている所もある。
山口県あたりなんかじゃ犬の霊を『犬外道』って呼んでいて犬神と同じような扱いをしているらしいし、徳島県なんかじゃ横死した人の怨霊とまで言われていて、実にさまざまなパターンがある。
この外道の付いている家はゲドウ持ちっていわれるらしい。
外道は台所や納屋の下に棲んでいて小豆飯を主食としているらしいんだ。
ただ、この外道の姿は飼い主にだけ見えるっていう特殊な状態なので、人によって見える姿が変わるのかもね。
この外道、管狐みたく1つの群れに75匹いると言われていて、ゲドウ持ちの家に女の子が生まれると群れが1つ増えるらしい。
で、この娘が嫁ぐと生まれたときにできたゲドウが群れごと付いていき、嫁ぎ先もゲドウ持ちになってしまうんだって。
家が裕福で栄えている時はおとなしく飼い慣らされているらしいんだけど、家系が衰退して傾き始めると人に憑りついて家が滅んでしまうらしいよ。
『憑き物』はうつされる?
ん?どうしたんだい?
憑き物筋の人といると、憑き物をうつされるんじゃないかって?
ん~……ある意味うつされるというとそうかもしれないけど、厳密にはうつされるってことはないと思うよ。
憑き物筋の人と普通に付き合っている分には周囲には害がないんだけど、憑き物筋の人にひどいことをしたりすると、犬神やオサキキツネなんかは主人に代わっていじめた奴に復讐しにくる。
飯綱の家系なら本人が憎い、殺してやりたいって思ったらすぐに相手の所に飛んで行って憑りついて殺してしまうこともあるだろうね。
憑き物筋の女性と結婚すれば自然とその憑き物も一緒についてきてしまうけど、これは確率的にはそうそうないことだろうけどねぇ。
何にせよ、普通に人としてきちんと接していればうつされることはほとんどない。
稀に憑き物に気に入られて、憑かれることもあるかもしれないけどね。
まとめ
どうだった?
犬神しか知らなかったって?
意外に管狐とか知られてないのかなぁ?
憑き物筋の憑き物はその辺の幽霊や妖怪とはちょっと違うレベルだって言うのがわかったかな?
それぞれの地域で信仰しているものなどによって憑き物の姿や棲んでいる場所、行動パターンなんかが変わるみたいだね。
本当に憑き物が存在するのか、は幽霊がいるのかいないのかという質問と同レベル。
昔は病気として理解されていなかったてんかんやヒステリー症状を憑き物というもののせいにしている可能性もあるけど、実際に特定の人に酷いことをしたら、不幸になったっていう話もあるから、100%いないとは言い切れないよ。
もし憑き物筋の人が周囲にいたなら、人としてきちんと礼儀正しく接していれば呪われたりすることはないよ。
普段の行いで憑き物に悪さされるかどうかが決まるようなものだからね。
ま、憑き物筋の家ってそんなに多くはないから心配しないで大丈夫だよ!
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