アイヌの伝説や物語に登場するコロポックル。
小人や妖精のような愛らしい姿で登場することの多い彼らですが、実は空想上の生物ではなく実在していたとも言われています。
では本当は何者なのか?
その正体について調べてみました。
コロポックルの正体とは?
コロポックルは、アイヌよりも前から蝦夷(北海道)に住んでいた先住民族との説があります。
明治時代の自然人類学者の坪井正五郎らが、日本の石器時代人はコロポックルであるという説を主張し、当時の学会では大きな論争になりました。
この論争は、考古学調査などの進展により、多くの研究者はコロポックルと呼ばれたのはアイヌであるという説を支持し、大正二年に坪井正五郎が死去したことにより終わりを迎えました。
また、日本の考古学者でアイヌ研究者の瀬川拓郎は、沈黙交易と呼ばれる交易相手との接触を避ける方法や、竪穴式住居に住む、土器を作るなどの習慣や風俗が一致することから、「北千島のアイヌがコロポックルの正体」との説を提唱しています。
コロポックルの名前の意味
コロポックルという名前は、アイヌの言葉で「コロ」は「蕗の葉」、「ポツ」は「下」、「クル」は「人、神」をそれぞれ表し、3つ合わせて「蕗の葉の下の人」という意味になります。
コロポクグル、コルポクウンクル、コロポツクカムイ等々いくつかの呼び名があるようです。
樺太には、「トチ・ウン・グル(土の家に住む人)」の伝承があり、トンチトンチなどとも呼ばれたりしていますが、そのトンチトンチとコロポックルは同類とみられています。
コロポックルとアイヌの怖い関係
アイヌが、蝦夷のその地に住み始めるよりも前から住み暮らしていたコロポックルを、迫害して追い出した、親切にした恩を仇で返すような真似をした、など地域によって諸説ありますが、アイヌが大変な怒りをかったというのは共通しているようで、その地を離れることにしたコロポックルは、去り際に次のような呪いの言葉を吐いたとされています。
「このコタン(集落)のものはこれから何でも焼ける。このコタンはトカプチー(水は枯れろ、魚は腐れの意)と名付けるぞ。」
それ以来この土地をトカップチコタンと呼ぶようになり、十勝の地名の由来になったとされています。
北海道各地に伝わるコロポックル伝説
アイヌに伝えられているコロポックルの話をいくつかご紹介します。
十勝のコロポックル伝説
十勝川沿岸に住んでいたアイヌの一族の元に、夜な夜な魚などが届けられる不思議なことが起きました。
真夜中に魚を置いていくものの正体を誰も見たことがなく、初めは気味悪がっていましたが、ふたりの青年が選ばれその正体を確かめることになりました。
真夜中になり青年たちが息を潜めて待っていると、窓から白い小さな手がそっと差し伸ばされました。
青年たちがその手を掴み、中に引きずり込むと、それはコロポックルの小さな可愛い女でした。
女は恐怖で泣きながら逃げ帰り、怒ったコロポックルたちは「鮭の皮の焼けただれたごとく死すがよい」と叫んでその地を見捨て、その後コロポックルたちの姿を見ることはなくなりました。
道北地方のコロポックル伝説
昔、まだシャモ(和人)がいなかった時は、天塩川筋で皆幸せに平和に暮らしていました。
その頃コルポツクンという小さい人がいて、時々珍しいものを持ってきてくれました。
夜明け前にやってきて、戸の隙間からそっとものを置いていくので、コルポツクンを見たものはいませんでしたが、コタンの老人たちは、その姿を見ると罰が当たると言って、誰もその姿を見ようとはしませんでした。
ところが一人の若者が、どうしても一度姿を見てみたいと思い、ある夜、戸の陰で待ち続けることにしました。
夜明けも近くなった頃、戸の隙間から小さな可愛らしい手が差し伸ばされました。
若者がその手を掴み中に引きずり込むと、現れたのは裸の小人で、本当に可愛らしい人でした。
小人は自分はコルポツクンだと言い、姿を見られたからもうこの村にはこないと言って逃げて行ってしまいました。
コルポツクンが来なくなった頃からシャモが来るようになり、コタンは段々と滅びていったそうです。
芽室町のコロポックル伝説
十勝平野が果てない草原と密林で覆われていた頃、十勝川支流の美生川を、魚を追って遡るコロポックル族の一団がいました。
美生川を上流まで上っていくと、山の中の大きな滝にたどり着きました。
滝の下流は魚が多く、山には果物や木の実、原野には野草が群生していました。
コロポックル族はこの地を安住の地と定め、住まいを作って暮らし始めました。
平和に暮らしていたある日、身の丈6尺(約182センチ)もある、眼光鋭い恐ろしい異民族が攻め上ってくるという話が伝わってきました。
コロポックル族は山の断崖を砦とし、異民族の攻撃に備えました。
やがて鮭を追って美生川を遡ってきた異民族は、コロポックル族の砦に激しい攻撃を加えました。
このような戦いが二度繰り返されましたが、数年後とうとう砦の後ろに回り込まれ、異民族に砦を奪われてしまいました。
その後、コロポックル族の姿はこの地から消えてしまったそうです。
物語の中のコロポックル
現在イメージするコロポックルといえば、佐藤さとるさんの「コロボックル物語」が挙げられると思います。
シリーズ全5作(別巻1作)のこの作品の1作目は、秘密の小山に住む伝説の小人「コロボックル」と、彼らを守ろうとする「ぼく」の物語です。
小さい頃にこの本を読んで、小人に会いたいと彼らを探した人も多かったのではないでしょうか。
まとめ
コロポックルの正体は石器時代の先住民族であるとか、北千島に住んでいたアイヌの人たちのことだったなどと、学術的な方面から研究者たちは考察していたようです。
伝説をみても、戦いに敗れた、無礼な振る舞いに怒ったなどの違いはありますが、元々コロポックルたちが住んでいた所を、後からやってきた者たちによって追われたということは共通していると思います。
ただ、「コロポックルは人である」というよりは、蕗の葉の下に隠れられる小さな体の妖精や、知恵を授けてくれる神様のような存在であるほうが夢がありますね。
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